「Libera me」
十代、十代と呼ぶ声がして、ふと目を覚ます。
最初はユベルが呼んでいるのかと思ったら、それにしてはずいぶんと低い声。
誰だろう、すごく聞き覚えのある声なんだけどとか思いながら目を覚ますと、
うすぼんやりとした月の光の中に不機嫌そうな自分の顔が見えた。
「…なんで覇王がいるんだ?」
「それは俺が聞きたい。ユベルとの戦いの時確かに『覇王』を蘇らせていたが
このような形ではなかったはずだ」
そう、実際ユベルと戦っている時には覇王を『個人』として認識するようなことは無かった。
まあ、それどころではない状況ではあったけど。
とりあえず起き上がりと色々確認したところ、別段何かしらの危険があるわけでもなく、
覇王は自分と同じ顔をした幽霊のような存在、というカンジなので
「……んーよくわからないけど…別に問題無いか」
そう結論すると、
「……問題無い、か」
皮肉げに覇王が唇を歪める。
笑っているつもりなのか、どこか苦しいのか、判断のつかないその表情に引っかかりを覚えて、
何だよ。と睨み付ける。
「覇王の力はすでに貴様がコントロールをしていて、俺には何もすることが出来ない。何も無い。
ただ『覇王』という名を持つただの幽霊に等しい存在だ、確かに貴様には「問題はない」な」
「何が言いたいのかわからない、覇王」
「俺は何のために存在した?…そしてそのために何をした?」
屍の山を築き、多くの血が流れ河になり、多くの人や精霊を殺し、その力を奪い尽くし、
そして作り上げた超融合のカード。
思い出すだけでも今も吐き気のする血塗られた過去。
そう、それはこの目の前の覇王の手によって起こされた惨劇で、
「一度は貴様も俺の存在を否定しただろう。
何故、蘇らせた」
ゆらゆらと何もつかめない手が何かを、俺に触れようとするけれど、
ただすり抜けるだけだ。
この世に干渉することも出来ず、ただ漂うだけ、
これがあの世界を思うがままに蹂躙した覇王の末路か、
なんて無様。
そう自嘲するような言葉の羅列は覇王が紡いだのか、俺なのか、
でもそうじゃない、大事なのはそこじゃない。
「あのまま消えていて当然なのに、それこそが自分の役目なのに、
何故、何故だ、十代」
あれは俺がしたことなのに、
どうして、十代が今も罪の意識に苦しんでいて、それに対して俺は何も出来ないんだ。
ここに存在しているだけで、ただ苦しい。と覇王がこぼす。
泣きそうな顔だ、
…こいつ、こんな表情できたんだ、とかそんなことも思った。
俺の世界に生まれた時からこいつはあの鎧にその身を包んでいて、表情は見えなくて、
あの鎧はそのためにあったのかな、とか思う。
…さすがに、それは妄想かもしれないけれど、
「…ごめん」
幽霊のように触れられないから、ただそれだけしか言えない。
「いっそ、復讐のつもりであれば、どれだけ…」
「…だから、ごめんって言っているだろ」
そんなつもりはぜんぜん無い。
…無いから、たちが悪いのだけど。
覇王、と名前を呼んで、こちらに来させる。
無表情に近い顔に少しだけ疑問を浮かべたような表情が浮かんだことに少しだけ笑みがこぼれる。
「お前が生まれたのも、お前がいまここにいるのも、俺のエゴなんだと思う」
そう、沢山酷い事をしたのも、それを望んだのも、全部俺が心のどこかで考えていたことで…
覇王はただ、俺の願いを叶えてくれただけ。
誰が悪いのかといわれたら、全部俺が悪いのだ。
だけど、
「…今、こうやって…覇王がいることが俺には嬉しい」
本当にひどいヤツだ、俺は。
苦しんでいる覇王を見て、嬉しいだなんて。
…ユベルの影響かなあ、コレ。
そんなことを頭の片隅で考えたけれど、そんなことはどうでもいい。
今ここに覇王がいることが大事なのだ。
*
それからの話なのだけど、
まあ、別段特に問題もなく…問題があるとしたら、
小言を言うヤツがユベルだけではなく覇王も言うようになったのでうるさいのが2倍になった、ということだろうか。
「…貴様のしていることは、そうだな、わかりやすく言えば…
この世界で言うところの銃やミサイル、人を殺す道具に人の心を持たせるようなものだ」
「可愛いじゃねえか!!」
つまりは、翔の使ってるロイドシリーズみたいなカンジだろー?と笑いながら言うと、
眩暈がするだの頭痛がするというのはこのような感覚か、付き合いきれぬ。
と覇王がため息をこぼしながらゆらりとその姿を消す。
「あ、覇王が逃げた」
おーい覇王―と呼んでみるけれど返事が無い。
ヘソを曲げると長いからなあ、あいつ。
でも、しばらくしたらまた出てきてくれるだろう。
そう結論付けて一人、薄暗い部屋の中でごろりと寝転がって天井を見上げる。
そうして一人になると、とたんにそれまでずいぶんと上機嫌だった気分が急激に冷えてくる。
なんとなく、いや…狙って、傍に置いてあるデッキの中から一枚のカードを引き抜く。
裏返しのカードを表にしてみれば、覇王の象徴たる超融合のカード。
くるりくるりとそれを指でまわしてみる。
「わかっているって、俺は俺の罪を忘れていないって
…どうやって償ったらいいかわかんないけど、さ」
血塗られた手をどれだけ洗っても、血が取れないと喚いて手をこすり続ける悪夢をいつまでも見るように、
永遠に俺に付きまとう過去の罪だ。
だけどどうしようもない。
超融合を…この力を手放すわけにもいかないし、償い方なんてわからない。
ただその重さに耐え続けるだけだ。
…たまに考えることがある。
覇王が何故再び生まれたのか、今ここにいるのか。
それは、犯した罪の重さに耐え切れず、
皆を死なせてしまってあの異世界で一人きりになってしまったときのように、
また俺が壊れるのを防ぐため、ナニカが動いたのではないのかと。
まあ、ナニカってナニなのかわからないが。
ユベルやネオスなら運命とか宇宙の大いなる意思とかそういう小難しい説明してくれるのだろうけれど、
そんなものわかりたくもない。
「いやまあいいけどなあー俺は覇王がいたらそれで」
なあ、覇王。
そう呟くと、俺にしか見えない。精霊達にも、ユベルにも見えない覇王が、
笑っているつもりなのか、どこか苦しいのか、判断のつかないその表情をして、唇を歪める。
「ああ、十代。…そうだな」
俺の存在はお前だけのために。
そう答える覇王の表情は今にも泣きそうな顔だった。
fin
10/12/04up
このSSは覇王城再建計画様に寄稿した作品となります。
ひとつでも多くの覇王様萌えが増えますように!!
覇王様ばんざああああいい!!
企画サイト様
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