「手を繋ぎたくなる帰り道」










「うひーー寒いーー!!」
『いつまでもそんな格好をしているからだよ』
「いやだってさあ、この前まではすげえ暖かかっただろー
まあ、その前にジャケットはコレとあと一枚しか無いからコレでガマンしないといけないけどさー」

最低限の荷物とお金、それからデッキとデュエルディスク。
それだけで世界中を旅しているわけなのだが、
こういう寒い時には少しばかり不便だ。

まあ、でも突発的に事件に巻き込まれたり、解決のために走り回るので、
これぐらいの荷物が身軽に動けてちょうどいい、と思っているので仕方ない。


『…まあ、でもそろそろ一着ぐらい暖かいモノを買ってもいいかもね。
この程度で寒い〜寒い〜っての聞き飽きてきたよ』
「ちぇー仕方ないだろー」
ユベルは流石に精霊なだけあって寒さとか鈍い。
一面が銀世界とか凍りついた場所ぐらいになれば流石に寒いとかいう感覚がわかるらしいが。
…まあ、寒かったらあんな薄着でいるわけがないのだが。


小さいころはその事がわからなくて、
『…ユベル、さむくない?』
目をうるうるさせて、そんなことを聞いたりしていた。

『僕は精霊だからね、大丈夫だよ』
とかユベルは言うけれど、すごく寒そうな格好だったから…
ユベルをどうにか暖かくできないかなー、でも空中のユベルに触れられないし
とか幼い自分は必死に考えて、

デッキの中からユベルのカードを出してきて、
ぎゅーっと抱きしめたのだ。
ひんやりしたカードが人肌に温められてほんのり暖かくなっていく。
そうしたら、ユベルも暖かくなると思ったのだ。

『えへへ、これでユベル暖かい?』
『……うん、暖かいよ十代』
今ならわかるけれど、暖かいわけ無いのにユベルは微笑んでくれて、
それを見て嬉しくてたまらなかった小さい頃の自分。


(……う、わー)

今考えるとすっげえ恥ずかしい。
いやまあ微笑ましくていい話だなあ、とは思うけれど
あくまでもそれは他人事だったら、という話で、
今、もう一度アレをやれとか言われたらちょっと恥ずかしくてムリだと思う。


『…してくれないんだー』
「…っ!!」

にんまりと意地悪そうな顔をしてユベルが俺の顔を覗きこむ。
ひとつの体に魂がふたつ、というのもこういう時不便だな。とかため息をこぼしたくなる。
まあ、それ以前に、
「アレで暖かくなるならやってやるけど、そういうわけじゃないし。
それに今、寒いわけでもないだろ?
……いや、寒くなったときには、そのときは…ちゃんと…さ、」
どういう手段使えばいいのかはまたそのときに考えたりするけど、
…もしもユベルが寒い時には、本当にちゃんと暖めてやりたいのだ。
照れくさくて、上手く言えないけれど。

『……』
「……なんだよぉ、なんか言えよ〜〜っ!!」
『………う、だって』
そんな嬉しいこと言われたら、とかもユベルが赤面しながらもじもじしている。
そういう反応されたら余計に恥ずかしいじゃないか。


そうこうしている間に、拠点として借りていた部屋の前まで来ていた。
うー、顔がなんかほかほかする、とか思いながら鍵を開けようとすると、

『あ、ちょっとまって、先に入るね』

そう言ってユベルがすうっとドアの向こうに消える。
「?」
何がしたいのだろう、とか思いながら、鍵を開ける。


『おかえり、十代!!』

ドアを開ければ、先に入っていたユベルがそう言って笑顔で出迎えてくれた。

『……ただいまは?』
「…あ、そっか…えっと……ただいま」
『うん、よろしい』
何をするのかとちょっと構えていたら、思ったのとはぜんぜんちがっていた。
面食らって固まってしまったのを見てユベルが一瞬眉を顰めて不機嫌そうな顔をしたけれど、
俺がただいま、と言うとまた嬉しげに笑った。

『一度ね、やってみたかったのさ』
「…そういえば初めて聞いたかも」
『…だって、いつだって一緒だから必要ないだろう?』

でも、とユベルが続ける。

『僕は君の家族みたいなものなのだし、一度ぐらいは君に言ってあげたかったのさ

…それにしても、さっきの十代の言葉が嬉しかったから
僕も何か十代にしてあげたいなーって思ったからやってみたのだけど…

…照れるね、これ…』

照れくさそうにしているユベルにあわてて首を横に振る。
「いやでも、すっげー嬉しかった。
昔からあんまりそういうこと言ったり、言われたりすること少なかったし、
まさかユベルがそういう事してくれるって思わなかったから、すごく嬉しい」
へへへ、と笑いながらユベルを抱きしめる。
『わ、こら!!さりげなく実体化させてどさくさにまぎれて触っているんだい!!』
「んー?だって、普通さ〜おかえりなさいの後ってさあ

『お夕飯にする?お風呂にする?それとも、私?』
って続くんだぜー?

というわけで、ユベルにする」

『何ソレ!!そんなの知らないよ!?ウソをつかないでよ十代!!
それにこんなところ狭いし………っ!!ちょ、ちょっと!!……ばかー!!』
「なんだよ、いいだろー?…ここじゃなきゃいいのか?」

そうしていつものようにケンカするようにバカなことをはじめる。
…まあ、こういうことをするのはお互いに恥ずかしかったという事の照れ隠しなのだけど。

今、すごく幸せな気分なのは間違いない。






10/02/22up

手を繋いでって繋いでいないですが、昔の洗剤のCMの歌みたくキャッキャウフフとかするだけのお話です。
ユベルって寒いも熱いもわからないけど、十代はそういうの大事にしそうだよねえとかなんとか
新婚夫婦みたいなカンジですが、イメージはまさにそんな感じ。
ピンク色のエプロン装備して台所でくるくるしてほしい、絶対可愛いよユベル!!
ふおおお十代うらやましいいいいとか言いつつ終了。

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