「supercalifragilisticexpialidocious」
ヨハンとユベル。きみのためにうたう歌みたいな話2万ヒットゆるぼリクエストその2
そろそろ留学期間も終わってしまって、この島から離れてしまうから。
それと、十代の無事な帰還を祝って、というわけで
馴染みとなったメンバーで灯台で釣り大会が開かれることになった。
「いやー良かったぜ、いい天気だし、絶好の釣り日和だよなー!!」
「そうだな」
俺がそう言うと隣で釣り糸を垂らしている十代が少しだけ笑みを浮かべる。
その顔を見て、異世界で別れる前の十代とは思えないような大人びた笑みとはいえ、
この世界に帰還してすぐの十代の暗い顔に比べればずいぶんマシだったので少しだけ安心した。
そのことが嬉しくて上機嫌になった俺はぼうず続きの剣山に絡んだり、
明日香や吹雪やエドが魚をどう料理したら美味しいか、なんて相談に混じったり、
翔やジムとオブライエンと戦利品である魚の検分をしたり、楽しい時間を過ごしていた。
そんなときだ。
「………あ」
あいつ、あんなとこで何をしてるんだろ?
「どうした?」
「万丈目、いや…ほら」
レッド寮の屋根の上を指差せば見覚えのある悪魔が座っているのが見える。
「なんであいつあんなところにいるんだと思う?」
「…………知るか!!」
それまでは結構機嫌よく釣りをしていたのに、万丈目はユベルと十代を交互に見てから、
あからさまに機嫌を悪くしてどすんどすんと足音を立てながら釣りに戻ってしまった。
どうしたんだろう?とか首を傾げるがわからない。
ともあれ、あんなところに一人で過ごしてるなんて寂しいじゃないか。
ユベルもこっちに誘ってやろう。
「ってわけでユベル誘いに来たのさ」
『………』
「なんだよー反応薄いなぁーユベル〜!!あっちで十代と一緒に釣りしっよーーーぜ!!」
しよーぜ!しよーぜー!!
と叫んでもユベルの視線は暗いし重い。ついでに無言だ。
なんだろう、そういう表情どこかで見たような…って。
「あー十代か」
すぐに今のユベルと同じ表情をしていた人物に思い至ってその名前を呟いただけなのだけど。
『……十代が何?』
ユベルの表情が一気に変わる。
嫌そうに細めてにらんでいた瞳がさらに細くなっているが
眼光は鋭い、殺意寸前の感情をこめて俺の続きの言葉を待っている。
まあ、本気じゃないのはわかってるので軽く受け流す。
「いやあ、十代とユベルが同じ表情してるなーって」
『……なんだ、それだけなのかい。それは当たり前だろう?』
「…なんで当たり前なんだ?」
本当疑問に思ったからそう言っただけなのだけど、ユベルは舌打ちをしてただ一言
『…お節介なヤツだねお前は、本当わけがわからない』
僕が何をしたのかとか忘れたわけ?
と、こぼした。
まあ、それだけでなんとなくユベルの気持ちは分かった。
十代のほうも…俺がユベルに囚われの身の時に色々とトラブルがあったという風にジム達に少し聞いているから…
ユベルと同じような気持ちなのだろう。
それ以外にもなんか十代本人から聞いたような気がするけど、超融合だとか魂をひとつにとか、まあどうでもいいことだ。
「…バカだなあ、そんなの決まってるだろー?
俺はユベルの事が好きだから、もっと仲良くなりたいからこうやって話しかけてるだけだぜ?」
ユベルもだけど十代もバカだなあと笑顔でそう言うとユベルが不味いものでも食べたみたいに嫌そうな顔。
『知ってるさ、お前がそういうニンゲンってのは…そりゃもう嫌というほど味わったからねぇ
余りにも居心地が悪すぎでその魂を闇に染めた虹龍に封じ込めるぐらいに。
体の相性のほうはいいのに魂はどうしてこうも相反するモノなのやら』
「いやあ、アハハハハハ、照れるなー」
『褒めてないっ!』
きしゃーと髪の毛を逆立ててユベルが怒るけど、なんだか人に慣れないネコみたいで可愛い。
『ああもうなんでほんとうこんなやつと十代が似てるなんて思ったんだろう!
ぜんっぜん違う!!僕のばかばか!!』
今度はぐったりと過去の自分を責めている。
「いやあ、俺と十代が似てるかあ、すっげえ嬉しいこと考えていてくれたんだなあ」
『今はそう思ってないからっ!!気色悪い笑顔振りまくなフリル!!』
そんな会話が10分ぐらい続いただろうか、
ユベルはぐったりと屋根の上に器用に伸びてしまった。
その姿がなんかもう可愛くて、
「うんうん、やっぱユベルってすげえ可愛い、好きだなー美人だしさー
だからさあ、俺のとこ来ない?」
『はい?』
このフリルいきなり突拍子も無いこと言いやがったとかユベルが頭を抱えてる。
「…あれ、おかしいな。
俺としては結構すげえ考えて真面目に提案したつもりなんだけど」
『…その『すげえ考えて』の部分をちゃんと説明してもらわなきゃわからないよ。
心を読もうと思ってもお前の中ってむちゃくちゃでわからない』
「んー別にさあ、そう難しいこと考えて無いんだけどなあ
今回の件はお前と十代が原因で皆が酷い目にあったわけだし、責任感じても仕方ないと思うけどさ、
十代もユベルも十分反省してるだろ?
でも、このまま一緒だったらさあ、ずーっとここに二人で閉じこもって延々自分を責めそうだから」
実際もうすぐ俺達留学生はいなくなるってのに十代は姿を見せず部屋に閉じこもってばかりだった。
ゴハンだってマトモに食ってないって話だ。
でも十代は心配しなくても本校の皆がなんとか立ち直らせてくれるだろう。
まだちょっとぎこちないカンジだけど、多分大丈夫。
俺よりも付き合いが長い人ばっかなんだし。
皆のほうがきっとその役目はふさわしい。
「でもさ、ユベルってすげー嫌われてるだろー?無関心ってのよりはイイけどさ
それに、ユベルが俺のとこ来たらこんな風に楽しいだろうしさあ
…だから、俺のところに来ないか?」
手をユベルに差し出して返事を待つ。
ユベルは悩むそぶりも一瞬も見せないで
ふっとため息を零す様に苦笑いをして
『馬鹿だね、僕が十代の傍を離れる?ありえない』
そう言い切って俺の手を払いのけた。
ちぇ、やっぱりそうなるか。
「…俺がユベル好きって思うのは本当だぜ?
…本当に本当、今言ったことってイイ提案だと思ったのになあー」
『ふん、僕と十代の愛に割り込もうとしたって無駄なんだから。
僕は十代を世界中の何よりも誰よりも愛してるし、
十代も僕を愛してくれているから、お前の入る余地なんかぜんぜん無いよ』
くっくっと笑うその笑顔はきっと万丈目あたりが見たら何をたくらんでいるんだ貴様とか怒りそうなぐらい邪悪なわけなんだけど、
そういう笑顔こそがユベルらしいとか思うぐらい、らしい笑顔で、
ちょっと前に遠いところを見るような、つらそうな顔をしていたヤツには見えない。
よかったって素直に思った。
しかめっ面とか、泣いている顔より…笑顔のほうがずっといい。
まあ、俺のおかげじゃなくて十代のことで笑顔にってあたりは少々妬けるけど。
「じゃあ俺は戻るぜー!!魚釣りーっ!!」
『はいはい、帰れ帰れ』
何度目なのかわからないため息を零してユベルが追い払うように手を振る。
そんなユベルに笑顔で手を振って屋根を降りていくと、
まったくもう、お前には…
とか、なんか聞こえた気がするけど、続きは聞こえなかった。
だけど、そのため息交じりの言葉は、なんだか優しいものを感じたから
聞き返すのはやめて、聞かないフリをした。
*
魚釣り大会も終わって、解散となって十代が僕の元に帰ってきてくれた。
「ヨハンと遊んで楽しかったか?ユベル」
『…見ていたのならあのフリル引取りに来てよ十代』
開口一番に言う言葉がそれなのかい?と文句を言えば「悪い悪い」とか言うけれど、その顔は楽しそうな笑顔だ。
『なんでそんなに楽しそうなのさ』
「ユベルがずいぶん楽しそうだったから、かな?」
『ふうん、魚釣りは楽しくなかったのかい?』
「そんなことはないぜ」
ふと、笑顔が少しだけ困ったようなモノになる。
「…本当、俺って皆にすげえ心配されてたんだなあ、
あんなことがあったのに、何事もなかったように接してくれて
…皆すげえよ。とかしみじみ思ったけど。
それはユベルも一緒だろ?」
十代が言っているのはヨハンの事だろう。
あいつのことを思い出すと唇の端っこがなんだかひくひくと引きつる。
『人と精霊を繋ぐだっけ…今回のもその一環なんだろうけど
人も精霊もイイやつばっかりじゃないんだから、
ああいう調子だといつか痛い目を見るよ、見ればいいんだよ』
「…痛い目にあわせた張本人が言うなよ。
ってかユベル、お前だってさあヨハンのこと…」
『あーあーあー!!聞こえない!!僕には何もきこえなーーーい!!』
魂が繋がっているってのがこれほど後悔するようなモノだったなんて!!
僕がちょっとでもアイツのこと、ヨハンのことを
かなわないヤツだな、とか
嫌いなヤツだとか思っていたけれど、今はそうでもないなんて思ったなんてこと。
そういうのが全部十代に伝わってしまうなんて、最悪だ。
「もしもヨハンに何かピンチがあったら、俺たち二人で助けような?」
くすくすと笑う十代に僕はただ『煩いよ十代のバカ!!』とか言うのが精一杯だった。
fin
10/04/06up
タイトルの読み方はスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス
メリーポピンズという映画に登場する、三回唱えると願いが叶うとされる言葉です。
いやあ、ヨハンってメリーポピンズみたいなイメージあったので(笑)
妖精さんだもの!!
という妄想はさておき、中身の話。
ヨハンとユベルってのは十代とユベルとはまた違う意味で美味しい組み合わせだと常々思っている組み合わせです。
そういう組み合わせでのリクエストありがとうございますー!!
いやしかし、なんかこれリク内容とは違わないか?とか悶々してしばらく寝かせていたのは秘密。
十代とヨハンは似ている、という話がまあ本編でもあったわけなんですが
デュエルってワクワク楽しいぜ以外になんかこー共通点が見当たらない気がしてならない(笑)
ヨハンはジャイアン気質というか、相手の可能性をつぶさないためにトラップは使わないってトコとか。
いや、ヨハンも十代と同じく全力で相手にぶつかっているわけなんですが、
ヨハンにはどこか余裕(下手な相手ならば手加減されてる気分になるかも)ある気がする。
そんな感じなので、初見のときは十代とヨハンって似てるかもなんて思っていても
結局のところなんか結構違うよね、という結論に達しそうな気がする。
そこらへん悶々とした自分の考えにとりあえずの結論出しつつ
まあそのうちヨハンのこと好きになったりとかしてユベルはギニャーとなればいい!!
可愛いなあユベルとかいいつつ終了。
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