「花よりあなた」
ひらりひらりとピンクや白の花が風に揺られて桜の花が舞う。
散った花びらが一枚がコップに浮かぶのがなんともいえない。
…あー日本人にうまれてよかったーなんてことを思ったりしつつ、コップの中身を飲み干す。
アカデミアの鮫島校長がなにやら便宜を図ってくれて他の一般人が入れないような場所を提供してもらってよかった。
ああ、もう本当一般人いなくてよかった。
『じゅうううだあああいい、コップ空いたねええええ空いたねえーもっと飲んでえええ』
「おうー飲め飲め十代――今日は無礼講なんだしさあ!!」
あははははははははははとか言いながらお酒をだばだばーとコップに注ぎ込むヨハン。
『ふりるー!おかわりー!!』
真っ赤な顔をして世界がぐるぐるするようー!!とか言うくせにお酒のおかわりをねだるユベル。
「おいそれぐらいにしろよー…」
とか言うけれど無駄なようだ。
誰か他に止めてくれるやつ、万丈目とか翔とかさあ!!とか思ってあたりを見回してみても死屍累々。
アニキーしっかりしてー!!とかオジャマブラックとオジャマグリーンが万丈目を揺さぶっているがアレ多分逆効果だろ。
「……おかしいな、普通のお花見のはずだったろ…」
『どうしてこうなったのかしらん…』
万丈目のために水の入ったコップを運んでいるオジャマイエローと二人、ため息をこぼした。
*
一時間ちょっと前ぐらいのことだ。
お花見をするなら何か一品オススメのものを持ってこようということになり、
ほぼ全員社会人ということもあって(一部のレイやマルタンはまだ未成年だけど)
お酒を持ち込む人も数人いた。
内訳としてはカイザーと吹雪さんが日本酒で、オブライエンはウイスキー、
エドはワインとかそういう感じで色々なお酒があった中、
ヨハンが奇妙なビンを持ってきたのだ。
「ヨハンそれ何っすか?」
「…自家製のお酒か何かかしら?」
「これなー!!すごいんだぜー!!この前ちょっと精霊界に迷い込んじまったんだけどさー!!
そこで困ってた精霊の手伝いしたらお礼にもらったー!!
なんでも飲んでも飲んでも減らない好きなだけお酒飲める魔法のお酒なんだってさ」
どうだ!すごいだろー!!とふんぞり返るヨハンに
「…ヨハンが言うなら精霊からもらったとかは本当にありそうっすけど…」
「さすがに飲んでも無くならないってのはちょっと、ねえ?」
苦笑して「またまた冗談を〜」とか言っていた翔と明日香に
「…あの、えっと、それ本物みたいなんだけどってオネストが」
「…俺のとこのクズどもも大騒ぎしてるぞ」
「えええええ?マジっすか!?…アニキー!!本当っすかー!!」
藤原と万丈目が言うことをまだ信用できないようで、俺に話題を振られる。
「ちょっとヨハン借りるぜ」
「おう」
きゅっぽんとコルクを抜いてすんすんとにおってみるけど、なんかフルーツみたいな甘い香りがするだけだ。
ちょっと舐めてみても本当ジュースみたいな味だし…
うーん?と首を傾げているとユベルがくすくすと笑いながら出てくる。
『それぐらいでわかるわけ無いじゃないか。
まあ、先に言っておくけど本当にそれは精霊の力が宿ったモノみたいだね。
飲んでも無くならないってのは確かめなきゃわからないけど』
「んーじゃあ、お前も飲むか?なんとなく飲みたそうな顔してるし」
『…うー、じゃあちょっとだけ分けてもらおうかな』
興味はあるんだよねとか嬉しそうな顔をするユベル。
『あーずるいのだわー!!』『十代の旦那ァ!! 俺たちも頼むぜー!!』『あ、でしたら僕も…』
とか精霊連中まで頼むし、しかたないので全員実体化させて宴会に参加させたのだが。
それが間違いだったわけである。
*
お酒の威力ってこれだけすごかったんだなあ、とかため息を零しながらジュースを飲む。
っていうか、精霊も酔っ払うのかよ…すげえよ…
とか、思考をあさっての方向に飛ばす暇は無い。
『じゅうううううだあああああああい!!しゅきーーしゅきーーーー愛してるよぅぅ』
ある意味いつもどおりといえばいつもどおりの言葉を言いながらユベルがべったりと張り付いてくる。
…が、その張り付き具合がおかしい、なんかぐねぐねしてる。どろどろに溶ける。
「…おい、離れろよユベル…」
『…ひ、酷いよじゅうだい…!!ぼ、ぼ、ぼくのこと嫌いになったの…!?』
じわーっと涙目になるユベル、あ、やべえ地雷踏んだ?
お酒で酔っ払っているからなのか、ものすごいどうでもいいことでユベルが泣いてしまったりする。
そのくせなだめるのが大変なのだ。
「いや、そんなことないけど…嫌いなわけないだろ…」
『…すきー?』
「……まあ、それなりに…」
こんな大人数のところでいえるかよ!!
なんだかんだで酔っ払いつつも周りの皆がこちらの会話の行方を見守っているからうかつなことはいえない。
というか、恥ずかしい。
『じゃーちゅーしてーちゅーーーーーー!!』
「できるかああああああああ!!」
煮え切らない俺の態度にぷうっとユベルがむくれて、正気じゃまず言わないようなことを言ってくる。
思わず叫ぶとまたユベルが泣き出しそうな顔をする。
「あれーあにきーしないんっすかー可哀想っすよー」
「しぇきにんとれ!お前のだろう!」
ぐらんぐらんふらんふらんと頭をふらつかせながら翔と万丈目が突っ込んでくる。
「いや!!ちょっとまてよ!!こんなとこで出来るか!!」
誰か助けて!!とか思って回りを見回しても
「…味がある…」「あははは!あはははは!」とか楽しげに宴会を楽しんでいるので助けてもらえない。
そうこうしている間にユベルは『ちゅー!ちゅーして!!ちゅー!!』とか迫ってくる。
どうしたらいいんだとか思っていると救いの手はあっさりと別方面からやってきた。
「じゃー俺がちゅーしてやるぜーユベルー」
『…え?』
えへへーと王子様スマイルを振りまいてヨハンがユベルの手を取ってくるりと回る。
おーさすがフリルの王子様、気障なポーズも難なくこなす。とか思った次の瞬間。
『い、いやああああああああああああああああああああ』
「えへへへへへーいいだろーいいだろー十代はしてくれないんだしさー」
「じゅうだいじゅうだいたすけてえええ!!いやああああああああああああああ!!」
嫌がるユベルに絡みつくフリルの悪魔、というなんとも言いがたい光景が広がっていた。
「…って面白がってる場合じゃねえや」
あわててユベルからヨハンを引き剥がすと、ユベルが俺の背中にしがみついてブルブル震えている。
そんなに嫌がるほど嫌だったのか、とか思うとヨハンに同情しつつ撫でてやると
ぎゅーっとしがみついてくる。
それがなんだか可愛かったから、
まあ、多分俺も多少は酔っていたのだろう。
「…これぐらいでガマン、な」
そう呟いてほっぺたに軽くキスを落とす。
『…じゅうだい…』
「あーもう、恥ずかしいことさせるなよな…」
『唇が良かったああああああ!!十代のバカー!!けちんぼー!!』
うわーーん明日香―――!!十代がいぢめるようー!!とかいいながら明日香のほうに飛んでいった。
…はい?
もう、ぜんぜんわけわかんねえ。
俺は一人ぽつんと取り残されて呆然としていた。
「ユベルがしらふに戻ってから頑張ってね、十代くん」
「吹雪さん…」
とりあえずどんどん飲みなさい。今日はお兄さんのおごりだから!!
とか吹雪さんに慰められつつ、渡されたグラスに注がれたお酒をぐいっと飲み干したのだった。
fin
11/04/30up
お花見といえば宴会、宴会といえば酔っ払い。
ぐにゃぐにゃに酔っ払っていつもよりも積極的になっちゃうユベルとか萌える
って通常もあまりかわらないんじゃないか!?とか思ったら負けです。
あと、こういう席で酔っ払えないのは後々損ですよね、
とかまあ、お花見とか飲み会でよくある感じの話でした。
べったべったさせたかっただけともいう。
いつもベタベタしてますが、それとは違う意味でのベタベタなのだよ!!
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