「その人は拾われてやってきた」


2、

せっかくお子様の世話から十代が解放されたのに、
十代はソファーに座って3秒で寝てしまった。
『十代、十代ってば!!酷いよ、十代!!
久しぶりに二人きりなのに寝ちゃうとか!! 起きてよー!!僕にかまって十代!!』
ぺちぺち叩いてみても「むにゃーもう食べれないー」だの言うだけで起きやしない。
はあ、とため息をついてから、
このままじゃ風邪…引かないだろうけど寒いだろうから毛布でもかけてあげようと周りを見回してみると
…緑色の髪を二つに括った少女…双子の兄妹のうちの一人、確か龍可のほうだ。
彼女が毛布を持ってポカンとしてこちらを見ている。
『……もしかして、僕が見えるわけ?』
こくこくと頷く龍可に、いい遊び相手ができたと思い思わずニヤリと微笑みを浮かべると
…なぜか引きつった顔をしている。どうしてだろう?

話し始めてから少し時間がたって。
『まったく、確かに僕は悪魔族の精霊だけどねー
…そこまで怯えられると、ほら、傷ついてしまうよ…』
「ご、ごめんなさい…」
ちょっとからかうつもりだったのだけど、久しぶりに十代以外に喋れる人間がいることと、
(十代の親友達であるフリル野郎やサンダーとかはもしもこの場にいても会話したい相手では無いけど)
龍可の反応が面白くてついつい調子に乗ってしまった。
『お詫びにちょっと君を味見…いたっいたっ!!』
『クリクリ〜〜〜!!』
『ちょっと!!ハネクリボー痛いってば!! …え?十代に言う?や、やだーー!! やめてよ!!』
ぽかぽかとハネクリボーとじゃれていると
龍可が楽しそうに笑う。…まあ、怯えられるよりはいいか。

なんとなく、それがきっかけで龍可の緊張も解けたみたいで、
寝ている十代とじゃれあっているハネクリボーと龍可のクリボンの邪魔にならない位置で二人でお互いの事を話す。
龍可は兄の龍亞の事、遊星やアキ…それから他の友達、デュエルの話
僕は…流石に十代と超融合しました、だの…そこにいたるまでの話をしてもまた怯えられるし、
話す必要も無いだろうと適当に判断して、十代の話と旅の話をする。
「…それじゃあ、ユベルさんはずっと昔から十代さんと一緒だったんだ…」
『まあ、ちょっと離れ離れになってた時期もあったけどね、
ちょうど君達ぐらいの頃の十代に出会ったんだよね…』
少しだけ昔の事を思い出して目を細めて龍可を見る。
…龍可はちょっとだけ、本当ちょっとだけど小さいころの十代を思い出す。
『…本当、昔は龍可みたいに大人しくて可愛い子だったのになあ…』
「でも、今の十代さんもユベルさんは好きなんだよね」
『うん、そうなの!!それに十代も僕の事を愛しているしね』
ふわりと漂いながら寝ている十代に近づき彼の頬に口付けると、龍可の顔が真っ赤になっている。
…そういう風な姿を見ていると、本当まだ小さな子供なのになあ。
あの遊星とかいう子たちもまだ子供だろうに大きな宿命を背負ってる。
『シグナー、か…』
…面倒な話だ。
十代が…赤き竜とシグナーそれに対するダークシグナーだのの戦いが繰り広げられているこの街にやってくること自体、
僕は反対していた。
十代が何もしない、出来ること自体が無いと言っていても
…結果、シグナー達と係わりあってしまっている。
……でもまあ、僕も甘いなあ。
魂も融合してしまっているから十代に似てしまったのか、
ほんの少しの休息の時間の間だけでも、彼らが安らかに過ごせますように、
なんてことを願ってしまった。
「…ユベルさん?」
龍可が少しだけ不安そうな顔をしてこちらを見ている。聞こえちゃっただろうか
『ん?…十代が早く起きて君達とデュエルしないかなーとか思ってさ
…さっきは遊星に負けちゃったけど…まだ僕をデッキに入れてもらってないし
アレが十代の実力だと思ったら大間違いだよ?本当の十代はもっと凄いんだから!!』
「え、まだ隠し玉があったの?すごいすごーい!! …あ、でも遊星は負けないよ!!」
ごまかすように…いや、僕の十代がすごいのは本当の事だけど…
デュエルの話をしたら喜んでいたので、上手くごまかせたようだ。

まったく、早く起きてよね?十代。
…お子様のお守りなんて僕には向いてないのだからさ。




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